刺繍データがスマホで開けないのは「画像ではないから」
.pes や .dst は、写真のような絵のファイルではありません。中身は「針をここへ動かして縫う」「糸を渡す」「糸を切る」「次の糸に替える」というミシンへの命令の並びです。ギャラリーやPDFのアプリには、これを絵にする機能がありません。
そのうえ Android は、これらが何のファイルなのかを知りません。Pixel 9(Android 16)と Galaxy A03s(Android 13)で試したところ、.pes .dst .jef .exp .vp3 .xxx のどれにも、端末はファイルの種類(MIMEタイプ)を付けませんでした。種類が分からないので、ファイル管理アプリは「開けるアプリがありません」と言うか、刺繍と関係のないアプリを並べます。
つまり必要なのは、刺繍の形式を読んで、縫い目を描けるアプリです。
刺繍データの形式とメーカーの対応表
刺繍データは、ミシンのメーカーごとに形式(拡張子)が違います。自分のミシンがどれを読むかは取扱説明書に書いてありますが、おおよその対応は次のとおりです。右の列は、そのファイルの中に糸の色が記録されているか。これが、あとで出てくる「色が違って見える」の原因になります。
| 拡張子 | 主なメーカー | 糸の色の記録 |
|---|---|---|
| .pes .pec | ブラザー | あり(ブラザーの色表の番号。.pes は糸の名前や番号も持てる) |
| .jef | ジャノメ | あり(ジャノメの色表の番号) |
| .vp3 | Husqvarna Viking・ファフ | あり(色・糸番号・メーカー名) |
| .xxx | シンガー | あり(色の値) |
| .pcs .pcd .pcq .pcm | ファフ | あり(色の値) |
| .dst | タジマ(業務用ミシンの標準) | 原則なし(作ったソフトによっては、先頭のヘッダに色の行がある) |
| .dsb | バルダン | 原則なし(.dst と同じ作りのヘッダ) |
| .dsz | ZSK | 原則なし(.dst と同じ作りのヘッダ) |
| .u01 | バルダン | なし |
| .tap | ハッピー | なし |
| .exp | メロコ・ベルニナ | なし |
「あり/なし」は、オープンソースの刺繍ライブラリ pyembroidery の読み取り方と、それを移植した Stitchia の読み取り処理で確かめた内容です。
Androidで刺繍データを開く3つの方法
- アプリの中から開く(いちばん確実)。ビューアアプリを起動して「開く」ボタン(Stitchia なら「刺繍ファイルを開く」)を押し、ダウンロードや Google ドライブからファイルを選びます。ファイルの名前や届き方に左右されないので、まずはこれを試してください。
- ファイル管理アプリやメールの添付から。ファイルをタップして、「アプリで開く」の候補からビューアを選びます。ビューアを入れたあとなら、候補に出てきます。
- 「共有」から。「アプリで開く」がなく「共有」しかないアプリでは、共有先にビューアを選びます。
ZIPのまま届いたとき
買った図案は、たいてい .zip にまとめて届きます。中には同じ図案がいくつかの形式で入っていることが多く、.zip のままでは .pes 用のアプリでも開けません。
- 解凍する:Files by Google なら、.zip を選ぶと中身が表示され、[解凍]をタップすると元の .zip と同じフォルダに取り出されます(Google のヘルプ)。そのあと、自分のミシンの形式を開きます。
- ZIPのまま開く:Stitchia は .zip を解凍せずにそのまま開けます。中に図案がいくつかあれば一覧から選べます。Mac で作った ZIP に入っている
__MACOSXは拾いません。 - パスワード付きの ZIP は Stitchia では開けません。パスワードに対応した解凍アプリで取り出してから開いてください。
ブラザーのミシンを使っているなら
ブラザー公式のアプリ Artspira でも、外部の刺しゅうデータを取り込めます。ブラザーのサポートページに書かれている対応形式は PES・PHC・PHX・DST です。ブラザー以外の形式(ジャノメ・ファフ・シンガー・業務用など)を見たいときは、汎用のビューアを使う、という使い分けになります。
開いたら、ミシンにさす前に確かめる5つのこと
図案が画面に出たら、縫い始める前に次の5つを見ておくと、「枠に入らない」「途中で糸が足りない」を防げます。数字は、下のスクリーンショットの見本 bouquet.pes のものです。
1. 仕上がりの大きさ ―― 刺しゅうできる範囲に入るか
bouquet.pes は 112.0×132.8mm。たとえば刺しゅうできる範囲が 10cm×10cm の機種なら、幅も高さも超えるので入りません。比べる相手は枠の呼び名ではなく、取扱説明書にある刺しゅう範囲です。
この寸法は、データに記録された針の座標の端から端までを測ったものです。生地の伸びや芯地、枠の張り方で、実際の縫い上がりは少し変わります。
2. 色数 ―― 糸を何回替えるか
色数14なら、糸を通すのは14回です。数えているのは「色の区切り」なので、同じ糸が2回以上出てくることもあります。必要な糸の本数とは一致しないことがあるので、一覧で中身を見てください。
3. 糸の番号 ―― 買い足すときの手がかり
ブラザーの .pes は、糸の名前と番号を出せます。bouquet.pes の1番目は Emerald Green(Brother 507)。この 507 は、ブラザーが公開している刺しゅう糸の色の一覧(Thread Color List)の番号と一致します。
気をつけたいのは、.pes の中に入っている「色の番号」は糸の番号ではないことです。.pes は色を「ブラザーの64色の色表の何番目か」で記録していて、Emerald Green は色表では54番目ですが、売っている糸の番号は507です。番号を書き写して糸を買うときは、アプリやソフトがどちらの番号を出しているかを確かめてください。Stitchia は糸の番号(507)を表示します。
4. 色ごとの針数 ―― どの糸をたくさん使うか
糸の一覧は縫う順番に並び、色ごとの針数が出ます。bouquet.pes なら Leaf Green が 1,351針、Carmine は 240針。針数が多い色ほど糸を多く使うので、残りの少ない糸を針数の多い色に当てないように、糸を並べる段階で決められます。
5. 渡り糸 ―― あとで切る手間
離れた場所へ移るとき、糸は布の上を渡ります。bouquet.pes では、アプリが数えた渡り(ジャンプ)の記録が51。「渡り糸を表示」を押すと点線で重なり、縫ったあとにどこを切ることになるかが先に分かります。
DSTを開くと色が違って見える理由
「.dst を開いたら色がでたらめ」でも、ファイルが壊れているわけではありません。.dst はもともと業務用ミシン向けの形式で、縫い目と「ここで糸を替える」という合図だけを持ち、何色の糸かは記録しないのが基本です。色の記録がないとき、ビューアは仮の色を割り当てるしかなく、アプリごとに違う色になります。
ただし、作ったソフトによっては .dst の先頭512バイトのヘッダに色の行(TC)を書き込んでいることがあり、その場合は色が出ます(pyembroidery の DST の読み取り処理も、この行を糸の色として読みます)。
色が仮のときは、販売元のカラーチャート(糸の順番の一覧)を見ながら自分で付け直します。Stitchia では色見本をタップすると糸の色を選べ、そのファイルごとに覚えておきます。仮の色のときは画面にもそう表示され、縫う順番は正しく出ています。
反対に、.pes を .dst に書き出すと色の情報は残りません。Stitchia が書き出す DST にも色の行は入れていません。刺繍屋さんに DST で渡すときは、糸の順番を別に伝えてください。
.emb など、どうしても開けないファイルのとき
.emb は、Wilcom(ワイルコム)の刺繍ソフト EmbroideryStudio の作業用ファイルです。Wilcom はアウトライン・縫い目・糸の色などをまとめて保存する形式だと説明しており、家庭用ミシンで縫うためではなく、そのソフトで編集するためのファイルです。中身の作りは公開されておらず、約40形式を読めるオープンソースの pyembroidery も .emb は読みません。Stitchia でも開けません。
こういうときは、送ってくれた人に自分のミシンの形式(ブラザーなら .pes、ジャノメなら .jef、業務用なら .dst)で書き出してもらうのがいちばん確実です。ベルニナの刺繍ソフトの .art も同じです。
もう1つ、ダウンロードが途中で切れたファイルは、名前が正しくても中身が足りず読めません。Stitchia では「ファイルを読めませんでした。壊れているかもしれません」と表示します。もう一度ダウンロードしてみてください。
まとめ
- 刺繍データは画像ではなくミシンへの命令。Android はファイルの種類すら付けないので、ビューアアプリが要る。
- 開くときはアプリの中の「開く」からがいちばん確実。ZIP は解凍するか、ZIP を読めるアプリで。
- .dst .exp .u01 .tap は糸の色を持たない(.dst は例外的に色の行を持つことがある)。色が違って見えるのは故障ではない。
- 縫う前に寸法・色数・糸番号・色ごとの針数・渡り糸を確かめる。
- .pes の色表の番号(Emerald Green=54)と売っている糸の番号(507)は別物。
よくある質問
PESファイルはスマホで無料で開けますか?
Androidなら開けます。Stitchia は無料で、PES・DST・JEFなど15形式を開けます。画面上部にバナー広告が出ます。買い切り(800円)で広告を消せますが、消えるのは広告だけで、機能はすべて買わずに使えます。
iPhoneでも Stitchia は使えますか?
使えません。Stitchia は Android(スマホ・タブレット)向けのアプリです。
スマホで PES を DST に変換できますか?
Stitchia は、開いている図案を DST で書き出せます。DST は糸の色を持たないので、糸の順番は別に控えてから渡してください。PES などの家庭用の形式への変換はできません。
開いたファイルはどこかに送られますか?
Stitchia では送られません。ファイルはスマホの中で読み、どこにもアップロードしません。アカウント登録もありません。